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人工知能は子育てや教育をどのように変えようとしているか

人工知能は子育てや教育をどのように変えようとしているか

人工知能の発達は、急激に私たちの生活を変革しようとしています。今の子どもたちが活躍するこれからの時代には、人工知能が社会で占める割合は間違いなく大きなものになるでしょう。
また、これまで活用しきれなかったようなデータを蓄積することによって、人工知能を活用した新しいソリューションも生まれています。
今回は、子育てや教育と人工知能の関わりについて、紹介したいと思います。

子育て支援をしてくれる人工知能

人間の営みそのものとも言える「子育て」は、わくわくする気持ちと同時に、想像していなかったような困難に戸惑ったり、葛藤したりすることもあり、そういったジレンマの連続でもあると言えます。

子育て中の親の中には、ベビーカーひとつ買うにも、途方にくれる経験をした人がいるかもしれません。
A型・B型の違いに始まり、何歳から必要なのか、電車やバスでのお出かけが多い子育てなのか、日常の買い物などにも利用するのか、自動車に乗せる頻度は、など、子どもをもってみないとわからないような数々の条件があります。
こういった要素すべてを、購入者の評判などを調査し、価格も吟味して、正解を出すことは、とても煩雑な作業です。
なぜ途方にくれるようなことになるのかというと、まず子育てをしている人の生き方が家族の数だけ多様化しており、それと、ベビーカーが必要になる様々な状況というふたつの「変数」を見きわめることが難しいためです。
人工知能によるソリューションで多く見られる「質問の文脈を解釈し、蓄積されたデータから最良の回答を探す」という技術は、このような子育て中の親の悩みや疑問を解決するのにも、とても有効な手段になりえます。
ディープラーニングによる表現学習で、この状況の特徴量を抽出し、それに基づいてその問題に関する知識を構造化することができれば、自分がどのようなベビーカーをいつ買うべきかという複雑怪奇な問題を理解し、最良の意思決定ができるかもしれません(「ディープラーニングが解決した「特徴量抽出の壁」」という記事をお読みください。)。

たとえば、2016年9月6日から9月30日まで、川崎市と掛川市の行政サービスで実証実験をしていた子育て支援制度の情報サービスについて見てみましょう。
これは、人工知能が国や地方自治体の持つ膨大なオープンデータの中から、問い合わせ内容に最適なデータをピックアップして、提供するというものです。
質問を入力すれば、人工知能がその質問の意図を解釈して、膨大なオープンデータの中からぴったりの回答を持ってきます。
児童手当について質問すると、「児童手当は中学卒業までの子どものいる家庭のサポートとしてもらえるお金です」と回答したりするだけでなく、「2歳の子どもが言うことを聞きません」といった悩みを入力すると、こんな答えを返してくれたりもします。

「2歳頃のお子さんは自我が芽生え、自分でもやりたがりますが、できなくて子ども自身もイライラしています。そういう時期はどの子も通りますので、あたたかい目で見守って下さい。やりたがる時は、簡単なことをやらせてあげましょう。例えば、買い物で野菜やパンなど、安全なものを子どもにカゴに入れてもらう、パジャマやズボンなどがはけずにイライラしていたら、そっとわからないようにお尻の部分だけ手伝ってあげるなど。」

それ以外にも予定地域の未就学児の推移のデータや、国が定める保育サービスについての情報が掲載されたサイトなどを紹介してくれます。
子育て支援制度の概要や対象、支給方法などが提示されるのは、役所に電話をしたり足を運んだりするより気軽で簡単かもしれません。
人工知能は人間の窓口対応のような個人的な解釈をしませんので、正確ですし、作業効率も人間より優れています。
過去の膨大なデータを活用したこのような人工知能によるQ&Aサービスを企業が提供する例も増えています。

さらに、こうした悩みの入力そのものを蓄積していくことにより、地域における各家庭を表現する特徴量などが分析できるようになります。
さらに、公開されている既存のブログやレビューといったデータからも問題を構造化していけば、各家庭の状況や価値観などの知識をもとに推論を行うことで、他の問題に対しても、より適切な情報提供ができるようになるかもしれません。

子どもたちの教育はどう変わるか

一方、これからの人工知能時代に、子どもたちの教育はどのように変わっていくのでしょうか。

国立情報学研究所が進めている「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトをご存じでしょうか。
これは、「東ロボくん」と名付けられた人工知能が、東京大学の合格レベルに達することを目指すものです。
長文の記述が求められる東大の入試問題にはまだ太刀打ちできないようですが、進研マーク模試では偏差値57.8の成績をあげ、全体の6割に当たる474大学(うち国公立33大学)で合格可能性80%以上という判定を得ました。
同研究所社会共有知研究センターは、そもそも日本の中高生が、教科書をきちんと読めていないということを指摘しています(日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)が開催したフォーラムの講演より)。
深く意味を考えず、黒板を丸写しした内容を暗記に頼った勉強なら、人工知能のほうが優れているのは言うまでもありません。
人工知能が進化したことで、これまでのような勉強は人間には必要なくなるのかもしれません。
現時点では、「英語が得意」という能力は日本社会においてアドバンテージになることがありますが、一方で、自動翻訳の技術が相当に高いレベルに達しています。近い将来、英語が得意であることはもはや特殊な技能ではなくなってしまうかもしれません。
参考書等の知識をインプットし、テストでアウトプットする力を評価する現在の入試システムは、人間に求められる力ではなくなりつつあるのではないでしょうか。

子育て中の親が注目する「STEM教育」とは

そんな中で、最近話題になっているのは「STEM教育」です。
STEMとは、サイエンス(Science)・テクノロジー(Technology)・エンジニアリング(Engineering)・数学(Mathematics)の頭文字で、理系の学問やテクノロジー産業で求められる知識やスキルのことです。
言ってみれば、今後の人工知能の時代を生き抜くために必要な能力と言えるでしょう。
STEM教育はアメリカが発祥で、STEM人材を育成することが重要な国家戦略の一つに位置づけられています。
具体的な数値目標としては、2020年までにSTEM分野の教師を10万人養成、10年間でSTEM分野の大学卒業生を100万人増加させるというものです。
イノベーション社会を実現するために、新しいテクノロジーを生み出す「理系科目が好きな子ども」を増やしていこうというわけです。
日本の小学校でも、2020年からプログラミング教育がスタートすることが決まっているのは、まさにSTEM教育の一環です。
日本の科学技術系の教育は、じつは欧米と比べると段違いに遅れており、このため、高度なスキルを持ったIT人材が慢性的に不足している状態です。それに加え、IT人材の需要自体も増加しています。
理数系の学問は、基礎から知識を積み上げていく必要があり、高校や大学からでは間に合わず、早期教育が求められることから、STEM教育がクローズアップされているのです。
アメリカでは、アマゾンが、学齢ごとのSTEM教材を毎月送る「STEM CLUB」というサービスを始めていますし、アップルのアップルストアでも、8歳からの子どもたちを対象に、コンピュータの操作を覚えて物語をつくるサマーキャンプを実施しています。
STEM教育の強化は、国家レベルの課題であり、理数系の人材を確保したい民間企業も数多いので、STEM教育関係の教室や教材、イべントなどはこれからも増えていくと見られています。
また、リクルートが展開するスタディサプリというサービスも急速に教育現場への導入が進んでいます。これは人工知能というよりも教育のICT化といえますが、、インターネット予備校のようなもので、カリスマ塾講師の授業を自宅で受講できるというサービスです。分かりにくい学校の先生の授業を受けるより効率的に学力の向上につながっていくことが期待されています。

まとめ

日本の文部省では、「「知識」から「思考」へ」という2020年の教育改革を進めていますが、そこで碁の世界で勝利した人工知能とチャンピオンを比べてみましょう。
チャンピオンは相手の「先の手」を読んでいました。それに対して、人工知能は、蓄積されたビッグデータの中から、最も有効と思われる手を選択していただけです。
これがまさに「知識」と「思考」の違いではないでしょうか。
碁という勝負の世界では、「知識」が「思考」に勝利しましたが、「思考」は、その先の「想像」、さらには「創造」へと広がっていくものです。「想像」や「創造」は「夢」を生み、興味や関心、観察などを通して、「感動」できる心を育みます。「感動」は「感謝」にもつながっていくでしょう。
「知識」の塊である人工知能は、そういった領域にまで踏み込むことができるでしょうか。
人工知能の進化によって今直面しているのは、人間にだけ可能なことは何か、人間がするべきことは何かという問題なのかもしれません。