最近、自動車のコマーシャルで「自動運転車」という言葉をよく聞くようになりましたね。発達めざましい人工知能が、様々な分野で取り入れられるようになっていることがよくわかります。
人工知能の導入によって、コストのほとんどを占めている人件費を削減できるだけではなく、機械による正確な数値で仕事を行えるようになります。機械は疲れることがないので、仕事の活動時間も大幅にあがるというメリットもあります。
自動運転は、人工知能が人間に代わって認知・判断・操作を行うシステムです。これには高度な情報処理や走行制御が必要になります。
数台の車両が車群を構成して走行する「隊列走行システム」がすでに開発されており、白線に沿って自動操舵する「車線維持制御技術」や車車間通信技術を用いた「車間距離制御技術」が開発されています。一般道での自動運転を目指した技術開発も行われています。
プロのトラックドライバーが遠隔でハンドルを操作し、無人のトラックを運転するといった実験も行われています。
自動運転システムの応用先として、輸送業への導入が考えられます。トラックの自動運転走行の実証実験や新興トラックベンダーの自動運転車の開発が内外で進んでいます。ヤマト運輸とディー・エヌ・エーは、2017年に宅配便の配達に自動運転技術を活用する実験を始めています。
自動運転によってドライバーの負担は減ることが期待されていますが、現実的には自動運転システムそのものがまだまだ問題が山積みの状態で、今すぐに実装できるという段階ではないようです。
2016年5月には、アメリカで初めての自動運転による死亡事故が発生しました。ハンドルに手を沿えるようにと何度も警告を発せられていたにも関わらず、運転者がハンドルに手を添えておらず、それが原因で事故になったとのこと。システム面がしっかりしていても、運転する人間が従わなければ意味がありません。
国内でも、2016年11月に、乗用車の自動運転システムによる交通事故が起きています。
日産自動車に試乗した男性が、ディーラーの男性に「本来はここでブレーキを踏むのですが、踏むのを我慢してください」と指示され、その通りにしたところ、信号待ちの乗用車に追突してしまったという事故です。
ディーラーの男性が言うように、同社の自動運転システム「プロパイロットシステム」が作動するはずだったのですが、雨による視界不良で自動ブレーキが作動しなかったそうです。
警察の調べによると、2015年12月以降にメーカー各社の自動運転システムの過信による事故は6件あり、7人が軽傷を追ったと発表しています。
これらからも分かるように、現在のところ、あくまで自動運転システムは補助的なもので、完全に自動的に運転をしてくれるわけではありません。
SF映画のような未来的な自動運転システムはまだまだ実現は先になりそうです。
人間の運転者による輸送業は、勤務終了後に8時間以上の休憩を挟まず、1日11時間以上運転してはいけないという法律がありますが、もし自動運転システムになればその法律に縛られることはなくなるでしょう。
長時間の運転は人間を心身ともに疲弊させるので、もし自動運転システムが取り入れられれば大きなメリットとなるに違いありません。
また、適正速度の巡航走行などの効果で燃費も改善されるという予測もあります。
全日本トラック協会では、自動運転システムは大歓迎としていますが、現時点では長い道のりがかかることは間違いありません。
特に配達業の場合は、運転は自動運転システムが行うとしても、運転手の仕事は運転だけではありません。輸送業は、「運ぶ物の価値を保つ」のが仕事で、様々な目的で様々な物を運んでいます。貨物の積み卸し作業や荷扱いも重要なのです。BtoC取引では、現在でも配送先の人が留守で、何度も出向かなければならないということが社会問題化しています。運ぶ荷物の特性に沿って適した積み付けや走り方なども、まだまだ実用化にはほど遠そうです。
トラックは乗用車よりも慎重な運転が求められ、何倍も精緻な制御機構が必要です。無人トラックでの車庫入れや縦列駐車などの技術でさえ、まだ確立されていません。
臨機応変に対応できる重要な輸送業の担い手として、プロドライバーの需要が脅かされることになるのはまだ先のことでしょう。
無人の自動車が公道を走る未来には、やはり不安があります。その不安を解消するためには、様々なテストを行った上で実装しなければなりません。
東京都では、自動で走行する自動運転バスの実用化に向け、現在実証実験が行われていますが、これが本格的に始動すれば、ドライバー不足に悩む地方バスなどは助かりますが、近隣の住民には不安が残るでしょう。そうした不安をどう払しょくするかということも今後の課題です。
輸送業が自動運転システムを取り入れた場合、人間の仕事がなくなるのではないかという懸念があります。
今の輸送業界では、高齢化や少子化、労働環境などの影響で、若い運転者のなり手が減っている状況です。逆に負担の少ない仕事が増える可能性が高いと考えられます。トラック運送業界の労働力不足は将来に渡って続くものと考えており、むしろ無人トラックへの期待は大きいといえますが、自動運転システムのメンテナンスや設定を行うのは人間です。いくら自動運転システムを取り入れても、適切な経路などの知識がなければ、人件費を削減できても燃料費で大きな負担となり、自動運転システムを取り入れるメリットが軽減してしまいます。
ナビゲーションが発達した今でも、裏道、近道の設定をする際には、どうしても現役ドライバーの知識が必要なのです。
人工知能によって人間の仕事がなくなるというイメージがありますが、実際はそうではありません。機械に任せられる部分を任せて、人間は別の仕事をするだけなのです。
しかし、すべてを人工知能に任せるには、まだまだ改良するべき点が多く、1年や2年で自動運転システムが搭載されるということはなさそうです。まずはプロトタイプが完成して、それで様々な検証を行ってから完全搭載になるはずです。
自動運転システムはいつの日か確実に実装されるでしょう。便利なものが出てくるからこそ、人間も機械に負けないように、人間にしかできないことを磨いていくしかないのでしょうね。