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人事管理は人工知能にとって代わられるか~採用と人事管理の最新動向

人事管理は人工知能にとって代わられるか~採用と人事管理の最新動向

ビジネスにおける人工知能の導入が相次ぎ、新聞などで人工知能という言葉を見ない日がないほどまでになってきました。
中でも、ここのところ注目されているのは、人事という分野です。労働人口の多くが人工知能やロボットに代替されるとされる中で、特に人事部門のスタッフは、その可能性が高いと指摘されています。人工知能が進化し、精度が高まれば、人事担当者が果たす役割も大きく変わることでしょう。実際にはどういった変化が起きるのでしょうか。

人事部門に日々導入されつつある人工知能の例

すでにアメリカでは、次のような人工知能による人事業務サービスが、急激な勢いで成長しており、数百人の離職者の防止や、職場とのミスマッチ削減などに成功しているといいます。

  • 脳科学的視点から認知や感情面を測定し、求職者と企業をマッチングする人材サービス
  • 応募者や社員が書いた文章から、思考パターンやコミュニケーション能力を分析し、職務や企業の文化に適しているかを判定するサービス
  • 退職しそうな社員の素行(遅刻・欠勤などの勤怠状況やミスの多さなど)をチェックして、アラートを出すサービス

中にはほとんど未来SF的なサービスもありますが、人事業務に人工知能が導入されるとなれば、ますます、人工知能が人間の仕事を左右するイメージに近づいてくると言えるかもしれません。

企業に必要な人材かどうかを人工知能が教えてくれる

日本では、今後、労働人口が減少していきますので、その中で人事部門の果たすべき役割はますます大きなものとなります。
優秀な人材を選定するための採用はもちろん、既存社員のモチベーションを高め、離職率の低下を食い止められる適切な人材配置、人事評価を行わなければなりません。
本来、どんな知識やスキルを持った人材がどこにいるのかを把握し、その育て方を企画し、人を通じて会社のビジョンとコアコンピタンスを構築していくことが人事部門の役割です。そのためには現場の現実を知る必要がありますし、実際にそこに介入して、モチベーションを上げていくことも必要です。
しかし、企業の合理化・効率化が進む昨今、間接部門はどこもスリム化されており、人事部門も必要な業務に人員をさくことができずに、結果として大変多忙な部門となっています。
戦略的な業務などに手が回らない企業が多いというのが実情なのです。

たとえば採用業務。
採用担当者は、応募者数、面接に進む候補者を集めるために、ありとあらゆる告知に力を入れ、送られてきた応募書類を選考し、面接をセッティングすることに忙殺されています。
このとき、応募書類に書かれた学歴は、必ずしも有効な基準ではないということに採用担当者本人も気づいています。学歴が低くても優秀な人材はいくらでもいるからです。しかし、膨大な応募者を機械的に学歴でふるい分けざるを得ないのは、他に客観的な基準がないためです。
こうした採用業務に人工知能が導入されれば、求職者がどのような手段や媒体から応募したのかといった、採用担当者を忙殺させる管理業務はもちろん、入社後の社員データを読み込ませておけば、過去の合否情報を基に、適切な候補者を自動的に選ぶことすら可能いなります。
採用にあたった面接官は誰で、どの求職者にどのような採点をしたのか。
その結果どの部門に配属され、どんな現場でどのような活躍をしているか。
そういった勤怠管理や評価管理データと連動すれば、「この企業で活躍できる人材はこんな人間」というところまで、人工知能が基準を決めてくれるのです。
その基準に沿って採用した人材の入社後の活躍度をさらに蓄積していけば、システムはさらにブラッシュアップされ、高い精度を獲得するでしょう。
それを活用すれば、その会社らしい採用、評価、教育のあり方が確立することにもなります。そういった採用基準・人事基準は、社外秘のデータとも結びついた、大きな形式知の資産になるはずです。

人工知能によって、退職者を未然に防ぐ

人事部門のミッションには「働きがい」の創出といったこともあります。
入社後に社員が活躍するためには、最適な採用ももちろんですが、納得性の高い評価や、実効性の高い教育などの要素も関係しています。
しかしそれが十分でない場合、企業側が望まないのに、退職してしまうような人材も一定割合で存在します。
冒頭でも、「退職しそうな社員の素行(遅刻・欠勤などの勤怠状況やミスの多さなど)をチェックして、アラートを出すサービス」について紹介しましたが、働くスタッフの面談に人工知能を活用して、その悩みや不安を探り当てるような試みは、すでに日本でも始まっています。
たとえば、医療事務業界はコミュニケーションや対人関係の難しさから退職率が高いことが悩みです。
ある会社では、退職しそうなスタッフをなかなか面談で見抜くことができないという課題を抱えていました。
面談シートに書かれたキーワードの裏に、社員のどのような気持ちが潜んでいるのかということを見きわめるには、メンターの勘に頼るしかない状況でした。
そこに導入された人工知能のシステムでは、実際の退職者の面談記録をあらかじめ蓄積しておき、文章の文脈や単語などを解析することで、人間にはわからない、隠れた特徴を見つけ出していくというものです。
こうした作業はテキストマイニングと呼ばれますが、それによって、退職につながりそうな社員を、数値の大きさでアウトプットします(数値が大きいほど退職する可能性が高い)。
会社としては、退職の予兆があると人工知能が判断した社員を手厚くサポートし、退職者を1人でも減らすことにこのシステムを活用していると言います。
こういったシステムの特徴は、非常にスピーディーに処理できることで、ほぼリアルタイムでリスクを回避することができます。
このような対応は、私情が入る人間のメンターではとてもなしえないことです。実際、人工知能がリストアップした退職可能性の高い社員の中には、メンターが太鼓判を押しているようなスタッフもいたのです。

人事管理は人工知能にとって代わられるか~採用と人事管理の最新動向 まとめ

人工知能は、前例と勘といった曖昧な基準しかなかった人事部門の業務に、客観性をもたらすことになります。
しかし、上にあげた退職者発見の例のように、人工知能が導き出した結果を人間がどのように処理すべきなのかという問題も、今後は向き合うべき問題になるでしょう。

人工知能は何ができて何ができないのか。過剰な期待は経営判断を狂わせますし、過小な期待はチャンスを逃します。試行錯誤をしながら、早期に知見を持つべきでしょう。
人工知能は、膨大な前例があるような定型的な判断を迅速に下すためには役立ちますが、想定外の事象には、今のところ人間がかかわらざるを得ません。人工知能が人間にとって代わるのではなく、人間と人工知能の職務をどのように分担するべきかということを考えるときがくるのではないでしょうか。