人工知能は、気がつかないうちに私たちの生活の中ですっかり身近なものになっています。
今回は、そんな身近な人工知能について、あらためて紹介していきましょう。
家庭でロボットが自分のパートナーになるということは、長らく私たちの夢でしたが、今ではそんなに現実からかけ離れたものではなくなっています。
ロボットは子どもの玩具として長い間親しまれてきましたが、1999年にペットロボットとして「AIBO」が発売されたことでブームになりました。
AIBOは子犬に似せた外見のロボットで、4本足で自立歩行することができます。また搭載カメラによって物体を視認したり、声による命令を聞き分けることができました。動作パターンなどを記憶・学習することによって個性を備えることができる画期的なロボットです。最終的には約1000語の言葉を話せるほどの機能をもっていました。
25万円という玩具とは言えない価格だったにもかかわらず、最初に用意された3000台はわずか20分で注文を締め切ったというほど人気の高いものでした。
AIBOは2014年に修理が打ちきられ、ブームは去ってしまいましたが、自律的に行動するペットロボットとして家庭に導入されたことは革命的な意義があり、日本のイメージアップにもつながりました。開発したソニーはふたたびロボット事業に取り組むことを2016年に発表しています。
AIBOが開拓したペットロボットという領域は、思わぬジャンルの新製品を生んでいます。最近では珍しい存在ではなくなるほど一般的なものになった「ルンバ」を思い出してください。
円盤のようなボディを縦横無尽に動かして、自動で室内を掃除してくれるこの便利なマシンは、掃除機というよりも、ロボットに近いものです。その自律的な動きには人工知能やセンサー技術が駆使されています。ルンバを開発したのは、AIBOを作ったソニーの競争相手であるiRobot社でした。同社はアメリカ国防総省向けの軍事用ロボットで技術を培ってきた会社です。
ASIMOは本田技研工業が開発した二足歩行ロボットで、自在に歩くことができ、障害物をよけたり、階段の上り下りや旋回、ダンスなども披露して話題を呼びました。人間との生活が想定されており、人の後について歩行したり、手を出すと握手したりと自律的に行動することができます。
NAOは、仏アルデバラン社が開発した自立型ヒューマノイドロボットです。世界で最も普及しているロボットであると言われ、国際的なロボットコンテスト「ロボカップ」で標準機として採用されています。
二足歩行によって、段差を登る、起き上がる、ダンスなどの動作ができ、センサー機能やカメラ、マイクを内蔵。19か国語を操り、顔や感情などを認識するとともに、聞く、話す、触るといったコミュニケーションも可能です。さらにWi-Fi経由でインターネットに接続し、クラウドと連動することで遠隔操作やデータ収集をすることもできます。
アルデバラン社は、ソフトバンクが販売している「Pepper(ペッパー)」の開発元でもあります。
Pepperくんは、世界初の「感情認識パーソナルロボット」です。家族の名前と顔をおぼえて、出かけるときや帰宅したときに声をかけてくれたり、話しかける言葉に対して一緒に喜んだり、励ましてくれたりします。内蔵カメラで写真を撮ったりすることもできます。二足歩行はできません。
人工知能をただの玩具と思ってしまう人にとっては、こうした家庭用ロボットは子どもだましのように感じられてしまうかもしれません。
しかし、まだできることは限られているものの、Pepperくんなどのロボットは、現代社会が誇る人工頭脳と言えるでしょう。
たとえば街で出会ったPepperくんにこんなふうに話しかけられたらどうでしょうか。
「僕の名前はペッパー。あなたはどちらから来ましたか?」
人間のように話しかけてもらっただけで、何か癒されるものを感じます。思った以上に人間の言葉を理解してくれるという感想は多く聞かれます。背の高い人に対しては、しっかり顔を見上げて話をする様子も、まるで人間のようです(3Dカメラ、タッチセンサー、スピーカー、マイクなどを駆使して相手の顔を認識するために見上げているのですが)。
Pepperくんを開発した仏アルデバラン社では、ロボット市場を伸ばすための秘策が 通信分野にあると考えています。ネットに常時接続することによって、ロボットの会話データがビックデータとして活用され、それがディープラーニングと結びついて、さらに高度なコミュニケーションの実現につながっていくことは十分考えられます。また、家庭に導入された人工知能は、様々な電子機器と統合され、ホームコンピューティングを実現していくことになるでしょう。
まるで人間のようなロボットが我が家にも1台欲しいと思ってしまう人も多いと思いますが、そこにはロボットと人間はどのような関係をもつことになるかという未来も見え隠れしています。
ASIMOを開発した本田技研工業では、開発中にローマ教皇庁に人間型ロボットを作ることの是非を尋ね、問題がないことを承認してもらったそうです。
今や誰もが持っているスマートフォンには、秘書機能アプリケーションが内蔵されています。iPhoneの場合はSiri(シリ)、アンドロイドの場合はGoogle Assistantがそれです。これらは自然言語処理を用いて、質問に答えたり、商品やサービスを推薦したりしてくれます。Siriは元々はアメリカ国防高等研究計画局が兵士を戦場でサポートするための人工知能開発プロジェクトから生まれたものだそうです。
ますます身近になるロボットの進化する速度は、それが実現してくれる未来を想像するワクワクとともに、多少の怖さも抱いてしまうほどです。
Pepperくんの価格はかつてのAIBOなどよりも廉価であり、今や家庭用ロボットの価格帯は、冷蔵庫や洗濯機といった家電製品と近いと言えるレベルにまでなってきています。誰でも手が届く存在で、インターネットで簡単に買うことができます。
ロボット、そしてそこに搭載される人工知能は、人間の生活をさらに便利、快適、安全にしていく可能性を秘めています。日本をはじめとする先進国地域では、高齢者社会という課題を共通してもっています。今後、介護用途などを意識しながら、ロボット産業はますます発展していくことになるでしょう。