私の仕事がなくなるとき|仕事の価値、本質、業界の未来像を浮き彫りにするメディア

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人材不足解決のために物流業界が期待する、人工知能による自動化・効率化

人材不足解決のために物流業界が期待する、人工知能による自動化・効率化

物流は、社会の経済活動を支える重要な社会インフラです。
近年ますます勢いを増す通販市場によって、物流の需要は急拡大していますが、多くの報道でも知られているように、供給能力が需要に対応しきれない状況が社会問題にまでなっています。
ドライバーが不足し、高齢化も進む一方で、再配達や異常な配送スピード向上など消費者の要求は多様化し、それに応えるために、今や物流業界はパンク寸前の状態にまでなっていると言えるでしょう。
この状況を打開するために、人工知能をはじめとしたテクノロジーに対する注目や期待が高まっています。

物流業界が解決したい3つの課題

宅配最大手ヤマト運輸が、宅配便の基本運賃を27年ぶりに引き上げる方針を固めたのは記憶に新しいところです(2017年3月)。
長尾裕社長は「ネット通販の急成長と労働需給の逼迫で、事業の継続性に危機感を覚えるようになった」と説明しました(2017年3月7日付 日本経済新聞)。
物流業界がそれほどあえいでいる苦境とは、どんなものなのでしょうか。

ドライバーが高齢化し、人材不足に陥っている

ここ数年、少子化や労働者派遣法の改正などの影響で多くの産業で人手不足が深刻化していますが、物流業界も困難な経営状況に直面しています。
トラックドライバーに占める40代~50代前半は44.3%と全産業平均よりも10%以上高く、今後ますます高齢化が進むことが予想されます。女性の進出も全産業平均を大きく下回っています(40.3%に対し2.3%)。(「ドライバー不足等トラック業界の現状と課題について」(国土交通省)
少子高齢化社会が到来したことで、若年層の労働力はもはや貴重なものとなっており、その中で、物流業界の人材獲得競争力は決して高いとは言えません。
長時間運転、運搬の重労働といった厳しい労働環境や、激しい価格競争による低い賃金のために、若年層は物流業界離れを起こしています。
このため、物流業界においては、人材不足とドライバーの高齢化という問題が深刻化しているのです。

サービスの拡大により顧客の要求は厳しくなる一方

ネットショッピングは、すっかり一般家庭に普及しました。クリックするだけで翌日、早ければ当日に商品が家に届くという利便性は、年代を問わず、幅広い層にとって当たり前のライフスタイルになりつつあります。
急拡大する通販市場では、競争のために「すぐに届ける」「無料配送」という2点を顧客に約束せざるを得ない状況です。
そのどちらも、実際に負担することになるのは物流業界です。
個人顧客が増えたことにより配送は小口化し、配送拠点も増やさざるを得ません。また、消費者の要求は、営業時間外や即座の配達を希望するようになり、配達員の労働負担は増大する一方です。
2015年の調査によれば、同じ場所に何度も足を運ばなければならない「再配達」は、全体の19.1%、つまり5回に1回という事態にまでなっています。(「宅配の再配達の発生による社会的損失の試算について」(国土交通省)
それでも競争に打ち勝つために、物流業界は人材不足に悩みつつも、要望に応えざるをえない状況です。

積載率減少による効率悪化

運送用トラックの荷物積載率がは、当然、高いほど効率がいいわけですが、配送までのスピードが重視されるあまり、荷台の半分以上が空気のままの低い積載率での配送が行われているのが現状です。燃料代・人件費ともに非効率な状態を余儀なくされているのです。
大手では、自転車やバイクなどの小口配達、軽貨物車の導入といった小回りの利く配送手段も導入されていますが、そこでさらに人材不足に陥ってしまうというジレンマがあります。

2016年2月、物流業界の負担を軽減すべく、国土交通省は「改正物流総合効率化法案」を閣議決定しましたが、物流業界側の負担が軽くなると、途端に運賃引き下げが要求されるという実態があります。短期的な施策では物流業界の負担軽減、消費者ニーズへの対応のどちらにも応えきれないのです。

人工知能によって様々な効率化が進められる物流業界

そのように苦境に立たされている物流業界では、人手不足を解消し、経営を合理化するための打開策を模索してきました。
倉庫・物流センター業務と、輸送・配送業務の両方の業務現場に新たなテクノロジーを導入する試みは、これまでにも数多くなされています。
倉庫業務でいえば、店頭のPOS情報は、小売店の本部だけでなく、倉庫にまで連動しています。しかし、店頭在庫の需要予測をして自動発注するというようにはなっていません。
配送業務でいえば、荷物と車両の組み合わせと運行計画を自動的に作成する配車システムなども開発されました。しかし求車・求荷の情報を流すだけで、自動的にマッチングするようなものは実現できていません。
これまでの人工知能には学習能力という概念がなく、すべてのルールを細かく登録し、実績データもいちいち入力しなければならないため、余計に手間がかかるという代物で、使いものにはなりませんでした。
今話題にもなっているディープラーニングは、ベテランの作業員の判断基準を自動学習させることで、業務を自動化するだけでなく、膨大な過去データから最適な作業手順を提案させることへも応用できるようになりつつあります(「機械学習」で一気に実用化に向かう人工知能の最前線という記事もご覧ください)。

倉庫業務の効率化は物流会社の競争力を左右する戦略です。
各社では輸送拠点の統合や自動化などの改革に積極的に取り組んでおり、多くの人員削減に成功しています。しかし、入庫から棚入れなどの作業を主とする倉庫業務は、パートやアルバイトなどの人海戦術に頼らざるを得ない分野でもあり、労働数や品質の確保が困難という課題がありました。

また、物流センターにおける日々の必要な人員数、トラックの配備や倉庫内のレイアウト、出荷作業の順番などは、従来は現場の作業者や班長、センター長などの過去の経験と勘で割り出され、意思決定をしています。人間のすることですから、ときにはオーバーフローや不要人員などが起こり、非効率な人件費が生まれてしまいます。
たとえば、注文の多い商品が置かれている棚に多くの作業員が集まってしまうために、棚の手前に順番待ちの列ができ、集品作業効率が落ちるという現象が起こったりするわけです。このような場合には、ベテランの作業者がひとつひとつ作業指示をする必要がありました。

株式会社PAL、エーアイ・トウキョウ・ラボ株式会社、北海道大学調和系工学研究室の3者による産学連携プロジェクトは、荷主の物量分析・景況感・天候・工数の過去実績などのデータを蓄積し、データベース化して人工知能に学習させ、物流センターに必要な人員数を割り出して人員シフトを最適化できます。
ロボットならパートやアルバイトとは異なり、24時間365日働くことができますし、労働力を確保したり質を均一化させる必要はなくなります。

NTTデータでは、現場の画像、映像情報をディープラーニング技術を活用した人工知能に認識させることで、人手に依存した物流業務を自動化する技術を開発し、実証実験を鈴与、佐川急便などと行っています。
これが実現すると、人工知能を搭載したドローンなどのロボットが倉庫内を巡回して、荷物を判別したり自動的に仕分けることができます。
荷物の外装や形状、取り扱い、容積、汚れ・破損といった、人間が判断していた情報を自動的に判別することで、積み込み・積み降ろしや検品・梱包、棚卸し作業が自動化できるのです。

家具販売で知られるニトリでも、物流子会社にロボット導入を進めていくことで、作業の効率化や人手不足を解消していく計画を発表しています。

さらに、物流センターを通過する荷物を正確に予測することにより、トラックの積載率、到着予想時間も予測でき、運送方法を適正化することもできます。積載率が上がり、余分な人件費や燃料代が減り、消費者の在宅記録を学習し、事前連絡ができるようになったり、再配達要望に対する到着時間なども正確化できるといったメリットがあります。
人工知能の力を借りることで、このような物流予測が可能になれば、労働環境も改善され、人手不足の解消に結びつくかもしれません。

そのように設備や施設を自動化した上で、その管理業務にも人工知能を導入することで効率化する動きもあります。
物流においては、変動する需要にいかに柔軟に対応できるかということが重要になります。しかし、従来の業務システムは、天候不順などによる短期的な需要変動や、突発的な需要増加などがあっても、効率的に素早く作業指示を行うことができませんでした。実際には現場に蓄積されている経験などによって人間が様々な工夫をしているものであり、それをシステム化することもできませんでした。
日立製作所が開発している人工知能は、業務システムに日々蓄積されるビッグデータを解析し、需要変動や現場の状況に柔軟に対応し、適切な業務指示を行うことができます。
人工知能なら、過去の履歴から類似したデータを参照し、その作業手順を解析することで、需要変動に対応した効率的な作業手順を導き出し、最適化できます。現場の工夫や改善も取り込んで解析できるのです。
作業現場だけでなく、伝票整理や在庫管理などのバックオフィス業務への導入するこうした試みは、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などと呼ばれています。

人材不足解決のために物流業界が期待する、人工知能による自動化・効率化 まとめ

本記事では、人材不足という物流業界の苦境と、それを解決するための人工知能による効率化システムをいくつか紹介しました。
近い将来、倉庫業務や自動車運転も含め、物流の多くの工程が人工知能によって自動化されていくかもしれません。無人化が進めば、今度は、人間の仕事が奪われるという危惧にすらつながるのかもしれません。